令和5年9月の漁業アカデミー

   令和5年9

 9月に入っても暑い日が続いています。沖合で熱帯低気圧が多く発生しており、天候不良で漁に行けない日も結構あるようです。本県では9月15日からイセエビ漁が解禁となり、一部地域で操業が開始されます。県南部での実習も予定しておりましたが、天候不良により延期となりました。今月は、和田島漁協でバッチ網などの実習を行い、希望者がフォークリフト運転技能講習を受講しました。


〇進路選択オリエンテーション6(和田島漁協 9/5~7,9)

 場所:小松島市和田島町
 内容:和田島漁協 小型底びき網、瀬戸内海機船船びき網(バッチ網)実習
 参加研修生:一般コース3名、専攻コース1名

 9月5日(火)から7日(木)及び9日(土)に和田島漁協所属漁業者の指導の下、小型底びき網及びバッチ網実習を行い、研修生4名が参加しました。今回の研修では、初日にオリエンテーションを実施し、現地実習は天候の関係から、6-7日に底びき網漁を、9日にバッチ網漁を実習させていただきました。なお、初日には関係者のご厚意で新たな取り組みのカキ養殖についても紹介いただきました。研修概要は次のとおりです。

 9/5(火) 研修1日目 10:30~13:30
 ・オリエンテーション、カキ養殖見学、バッチ網漁船見学

 漁協事務所2階において、参事及び関係漁業者同席のもと、研修に関するオリエンテーションが行われました。和田島漁協の概要や地区で行われている漁業概要について説明があり、事務局からはチリメンやエビ類のもの知り図鑑を使い、追加説明を行いました。
 その後、底びき網漁業者が主体となって実施しているカキ養殖について、関係者に案内いただき、海上自衛隊小松島航空基地付近の海面に設置されているカキ養殖いかだを見学しました。当該漁場では、ニュージーランド発、本県初のフリップファーム式カキ養殖システムを導入し、カキ養殖が行われています。当該方式は日本では大分県佐伯市大入島で初めて実施された方式とのことで、フロートの付いたバスケットにシングルシード牡蠣種苗を入れて漁場に一直線に浮かせ、船外機に設置した専用の回転装置で定期的にカゴを回転・干出させる仕組みです。強制的に籠を反転させるため、平穏な漁場でも効率的な養殖が可能となります。帰港後紫外線殺菌海水で養生中の出荷用カキを見せていただき、毎週土曜日に漁協直売所「ちりめんの店」でも販売しているとのことでした。
 また、バッチ網研修でお世話になる漁船が近くに停泊中だったため、地元出身の専攻コース研修生が講師先生となり、バッチ網漁の説明をしていただきました。
 オリエンテーションの様子
 フリップファーム式でのカキ養殖現場風景
 養殖されたカキについて説明を受ける研修生
 養殖されたカキは「岬オイスター」と命名され、毎週土曜日に漁協事務所併設の直売所「ちりめんの店」でも販売され、人気商品となっています。
 専攻コース研修生(和田島地区でバッチ網及びワカメ養殖で就業予定の者)を講師に、バッチ網漁の説明をしてもらいました。

(参考)
次のHPに「ちりめん」や「アシアカエビ」をはじめ各種「徳島県ブランド水産物もの知り図鑑」が記載されておりますので、併せてご覧ください。


 9/6(火)~7(水) 研修2、3日目
 ・小型底びき網実習  6日 19:00~翌7日 7:00

 研修2、3日目は小型機船底びき網漁の研修を行いました。前月には播磨灘において北灘漁協所属底びき網漁船に乗船し、研修を行いましたが、今回は紀伊水道での底びき網研修で、規則により漁場や馬力・操業方法が大きく異なり、より大きな漁船での実習となりました。研修生にとっては同じ漁法でも、操業区域により規制が大きく異なることなど、その違いを実感でき大変良い経験になりました。
 紀伊水道で操業されている底びき網漁のイメージ図です。この時期は開口板を使った夜間の漁が主に行われます。

 和田島地区では13隻の底びき網漁船が操業しており、この時期の和田島では最後の小エビ狙いの夜間操業であり、だんだん漁が少なくなってきたことから、今後状況を見てボーゼ(イボダイ)狙いの昼びきに変更するとのことでした。研修時は選別、帰港時間等を勘案し、紀伊水道を2番曳網しました。少ないとはいえ小エビの漁獲量は多く、研修生も慣れない手つきで選別実習を行いましたが、多くの時間を要する大変な作業でることを痛感しました。研修当日は少なくなっていましたが、今年は紀伊水道でもクラゲが異常に多かったとのことで、今後のボーゼ漁に期待とのことでした。
【当日の操業工程】
〇氷等漁船へ積み込み → 出港 → 漁場到着 → 網入れ(1回目)→ 曳網 → 網揚げ → 網入れ(2回目)→ 曳網及び漁獲物選別 → 網揚げ → 帰港 → 漁獲物選別 → 陸揚げ・箱立て → 出荷 → 片付け・次漁の準備等
 実習でお世話になった小型機船底びき網漁船。日暮れに出港しました。
 漁場に到着し、曳網します。この日は小松島市~徳島市沖での操業でした。
 1回目の網揚げ作業です。大きなローラーで網を巻き取ります。船長の指導の下、研修生は邪魔にならないよう安全な位置で操業方法を学びました。
 袋網から漁獲物を船上にあけ、すぐさま2回目の網入れを行いました。
 2回目の曳網中に漁獲物の選別実習を行いました。この日はコエビ狙いで、コエビ(アカエビ・トラエビ)のほか、サルエビ(通称:ヌキやブト)、クマエビ(通称:アシアカ)等のエビ類の他、ハモ、イボダイ(通称:ボーゼ)、ヒイカ(ヒメジンドウイカ)等が混じりました。
 人数が多かったので即席で机を設置していただき、効率的に選別作業を行いました。
 選別後のコエビ(アカエビ、トラエビ)
 選別後のアシアカ(クマエビ)
 選別後のネブト(テンジクダイ)。珍重される岡山県の市場に出荷されるとのことでした。
 選別後のボーゼ(イボダイ)。だいぶ大きく育ってきました。徳島の秋祭りに欠かせない食材で、徳島県民に人気の魚です。他県では珍しい姿寿司も定番で、これからスーパーでもよく見かけるようになります。
 2回目の漁獲物は帰港後に実施し、手伝いの方も来られ、手早く選別が行われました。
 選別後、洗浄、箱立て、計量の手伝いを行いました。一旦漁協の保管倉庫で保管し、その日に多くが徳島市中央卸売市場に出荷されるとのことです。


 9/9(金) 研修4日目
 〇バッチ網実習 6:00~13:00

 研修4日目のバッチ網実習は8日(金)に予定していましたが、強風のため延期となり、天候等が回復した9日(土)に実施しました。
 バッチ網漁の操業イメージ図です。網船は、進行方向右側の船を真網(まあみ)、左側を逆網(さかあみ)と呼んでいます。

 本県のバッチ網漁は正式には瀬戸内海機船船びき網漁業といい、本県沿岸ではA~Dの4海区に操業区域が区切られています。和田島地区では沿岸のB海区及び沖合で入会のD海区が操業区域となります。
 本県最大のバッチ網基地である和田島地区のバッチ網漁は、昭和初期に6統から始まりました。以降昭和27年に17統となったのち、昭和50年頃には最大45統まで増加しましたが、平成10年頃から減少し、現在25統となっています。バッチ網はイワシ稚魚であるシラスのほか、来遊があればイカナゴも漁獲対象となります。他地域でのシラス不漁の報道もされたりしますが、幸い徳島県沿岸では、以前(H16~H26頃)に比べると近年シラスが好漁・価格安定傾向にあり、コロナ禍及びそれ以降においても比較的安定的な経営となっているのが特徴です。漁協によると、今年もこれまで比較的順調に漁があるとのことです。
 この時期は6時出船で、和田島のバッチ網は全船が一斉に港を出るため壮観な出漁風景となります。本県のバッチ網は多くが網船2隻、探索兼運搬船(通称:ジャッカー)1隻の3隻体制で操業を行っています。
 当日、研修生4名は1ヶ統の船団3隻に分かれて乗り組み出漁しました。研修当日は港を出て5分程度の和田島灯台付近でシラス魚群の反応があり、すぐさま網を展開し、漁を実施しました。曳網後、研修生は全員ジャッカーに乗り換え、水揚げ作業を見学しました。先端の袋網からフィッシュポンプで船上にシラスを水揚げ後、すぐさま港へ向かい、加工業者のトラックへ積み込み作業を行いました。この日は計3番曳網し、計1トン程度の水揚げとなりました。漁が終わると、網を巻き取りながら破れを修繕するとともに、次回の操業をしやすくするための漁具のしまいを時間をかけて丁寧に行っていました。研修生も的確な漁場選択、網入れ、操船指示、網揚げの見極め、選別、鮮度保持、漁獲物の扱い、次の出漁のための効率的な漁具配置等、無駄のない動きに感心していました。
 【当日の操業工程】
〇出港 → 魚群探索 → 網入れ(1回目)→ 曳網 → 網揚げ → 網入れ(2回目)・曳網+選別・水揚げ・運搬・トラック積込 → 網揚げ→網入れ(3回目)・曳網+選別・水揚げ・運搬・トラック積込 → 網揚げ → 選別・水揚げ・運搬・トラック積込 → 網船帰港準備(網巻き取り、袋網洗浄等)→ 網船帰港・係留作業・次回漁準備等

 出漁前に網や漁具の点検を再度行い、スムーズに網入れ出来るよう準備を行います。バッチ網は複数人数で操業するため、効率や安全を念頭に、入念に共同で作業を行う必要があります。
 6時に一斉出漁しました。ジャッカーが先導し、網船2隻は連結したまま漁場へ向かいます。瀬戸内海機船船びき網漁の操業は、「日の出から日没まで」と決められています。
 出漁後、すぐに魚探にシラスの反応があり、すぐさま網船の連結を解いて網を展開し、曳網を開始しました。
 出漁直後の魚群探知機映像(左から50kHz、200kHz、セレクタの画面。イメージとして、200kHz-50kHz=セレクタ画面です。)。シラスは魚体が小さいため、シラス魚群は解像度の低い50kHzには反応しませんが、解像度の高い200kHzに反応します。

 1時間程度曳網し、袋網からフィッシュポンプで船上への水揚げ作業を行います。
 漁獲されたシラス。この時期、ほとんどがカタクチイワシの稚魚となっています。
 漁獲・氷締めされたシラスはジャッカーですぐさま港に向かい水揚げされます。




 港に到着後、漁獲したシラスをジャッカーからすぐさま陸揚げし、保冷トラックに運び込み、チリメン加工場へと運搬されます。研修生も運搬作業の手伝いをさせていただきました。

 研修日は3回曳網を行い、昼頃3回目の網揚げを行いました。漁が終わり、次回の漁に備えるための整理を行いながら綱や網を巻き取り船上にあげます。共同作業のため、息を合わせて迅速かつ丁寧な作業が行われました。
 帰港後、袋網に残ったゴミ等を協力して取り除き、綺麗に整理整頓して終了となりました。

 最後にこの場をお借りし、大変お世話になった船長、漁船乗組員の方々はじめ和田島漁協の関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。


〇寒天原料入札会見学(9/12、13)

 全国漁業協同組合連合会主催の徳島県第1回寒天原藻入札会(全体で第6回目)が9月14日(木)に実施されるにあたり、県漁連のご厚意で、入札会場に県下漁協から出品されているテングサ等寒天原藻の見学をさせていただきました。

 実施日 9月12日(火)・13日(水)
 会 場 徳島県水産会館(徳島市東沖州)
 参加者 一般コース3名、専攻コース1名(どちらかの日に参加)

 今回は鞆浦~北泊までの8漁協から計2,180.2kgが出品されていました。例年に比べ量がかなり少ないため、通常6・9月に開催することとなっている本県での入札会は今回1回のみの開催となったそうです。
 徳島県のテングサ出品量は、H28~R2年までは30t~36tあったものの、R3年11.8t、R4年10.4tと減少し、今年度は約2.1tにまで減少しています(乾燥重量)。人数的にも今回の出品はたった10数人の漁獲分となっていました。これは、特に県南部の生産量の落ち込みと(現場に生えていない)、担い手不足によるものであり、かつて最大の出品先であった県南部牟岐町出羽島からは2年連続出品0とのことでした。
 全漁連主催(静岡など単独開催の地域あり)の寒天原藻入札会は徳島県が今年度6回目で、9/12高知県(第5回)、9/14愛媛県(第7回)の開催と、商社が買付しやすい日程調整がなされています。近年全国的に不漁で単価も上昇傾向にあり、良質のもので800円/kgとかだったものが現在2,000円/kgを超えるような状況になってきているとのことです。
 県漁連担当者からは、アカデミー卒業後は是非ともテングサ漁に従事してほしいとの要望が寄せられました。現在でも多ければシーズンで1t程度出品する漁家もあり、仮に2,000円/kgなら単純計算で200万円になることから、操業時間が確保できれば場所によっては大変有望な漁業と思われ、研修生も熱心に話を聞いていました。
 なお、入札会に参加されている商社さんのHPレポートには、本県含め全国の入札状況その他テングサの基礎知識等が詳しく掲載されていますので、興味ある方はご確認ください。

・森田商店HP

 天草(テングサ)入札会場(県漁連共販所)
 出品されたテングサを見学する研修生
 出品された乾燥テングサ





〇フォークリフト運転技能講習(9/25~28)

 場所:徳島市東沖州 中央技能講習所株式会社
 参加研修生:一般コース3名、専攻コース1名

 とくしま漁業アカデミーでは、漁業就業に役立つ資格取得を実施しており、その一環として、フォークリフト運転技能講習を研修生4名が受講しました(既取得者1名、受講可能年齢に達していない研修生1名は別途受講予定)。
 漁業での陸上作業において、漁船から荷捌き施設への漁獲物や漁具・氷の漁船への運搬の際、最大荷重1トン以上のフォークリフトの運転・操作に従事する際に必要な資格となり、今後、本県で漁業者として従事していくうえで非常に重要な資格といえます。
 研修生は9月25日に学科講義を、26~28日の3日間実技実習を受講し、最終日に修了試験を受験しました。今回の講習は天候にも恵まれ、修了試験も無事全員が合格し、受講研修生全員に無事修了証が交付されました。




 実技講習を受ける研修生。フォークリフト運転技能講習は天候に恵まれ、秋晴れの中受講することが出来ました。フォークリフトは自動車と違い、ハンドルを切ると後輪が動き、前方のフォークを安全・的確に操作する必要もあることから、慣れないうちは操作に戸惑ったとのことでした。